ビジネスモデルスライドの見せ方 — 1965枚の73%がフロー図、差がつくのは描き方 | 決算スライド研究室
ビジネスモデルスライドの図表は、なぜフロー図一強なのか?
答えは集計がはっきり示しています。上場企業の決算説明資料からビジネスモデル説明スライド1965枚を横断集計すると、1433枚(73%)がフロー図で構造を描いており最多です。2位の表(テーブル)は156枚(8%)にとどまります。
こんにちは。IR資料検索サービス ir-slide-library の開発・運営者が運営する「決算スライド研究室」です。4回目のテーマは、決算説明資料の序盤で「この会社は何をして、どこから収益を得るのか」を語る「ビジネスモデル」のページ。これまで観察してきたページでは複数の図表がシェアを分け合っていましたが、このページは様子が違います。図表の選択がほぼ一択に収れんしているのです。
道具が同じなら、差は描き方に出ます。今回は一強の背景を横断データで確かめたうえで、同じフロー図でもまったく違う描き方をしている二社 — ラクスルとABEJAの対照的な二枚を読み解きます。
※集計: スライド分類データ(ビジネスモデルカテゴリ)のチャート種別集計(reproducible_query: q_f0aefae0) / 対象: 上場企業の決算説明資料に含まれるビジネスモデル説明スライド(画像化済み)(n=1965) / 出典: 各社公開の決算説明資料(当メディア独自集計) / 取得日: 2026-08-15
※集計: スライド分類データ(ビジネスモデルカテゴリ)のチャート種別集計(reproducible_query: q_8d4800bd) / 対象: 上場企業の決算説明資料に含まれるビジネスモデル説明スライド(画像化済み)(n=1965) / 出典: 各社公開の決算説明資料(当メディア独自集計) / 取得日: 2026-08-15
そもそも「ビジネスモデルスライド」とは何か?
ビジネスモデルスライドとは、自社の事業構造 — 誰に何を提供し、どこから収益を得るのか — を、決算説明資料の序盤や会社紹介の文脈で図解するスライドである。本稿ではこの定義で観察を進めます。
集計の続きを見ると、一強の輪郭がさらにはっきりします。3位はポジショニングマップの83枚(4%)、4位は棒グラフの66枚(3%)。株主還元や市場規模のページで主役だった数値系の図表が、このページではほとんど登場しません。
理由はページの役割にあると考えられます。ビジネスモデルのページが答える問いは「いくらか」ではなく「どういう仕組みか」。金額や比率ではなく、登場人物とその間の流れ — 商品、サービス、お金、データ — を描く必要があります。矢印で関係を結べる図表はフロー図にほぼ限られるため、道具の選択が集中するのは自然な帰結です。つまりこのページは、図表の「選択」では個性が出ないページであり、フロー図という同じ道具の「描き方」に各社の設計思想が表れるページだと言えます。
※集計: スライド分類データ(ビジネスモデルカテゴリ)のチャート種別集計(reproducible_query: q_58f4fdee) / 対象: 上場企業の決算説明資料に含まれるビジネスモデル説明スライド(画像化済み)(n=1965) / 出典: 各社公開の決算説明資料(当メディア独自集計) / 取得日: 2026-08-15
※集計: スライド分類データ(ビジネスモデルカテゴリ)のチャート種別集計(reproducible_query: q_3d589e19) / 対象: 上場企業の決算説明資料に含まれるビジネスモデル説明スライド(画像化済み)(n=1965) / 出典: 各社公開の決算説明資料(当メディア独自集計) / 取得日: 2026-08-15
同じフロー図で、何が分かれるのか?
フロー図は自由度が高いぶん、伝わりにくくなる落とし穴も多い図表です。紙面でよく見かけるつまずきは三つあります。第一に「登場人物の過多」— 関係者を網羅しようとして矢印が交差し、どこから読み始めればよいかが分からなくなるケースです。第二に「流れの種類の未分化」— 商品の流れとお金の流れが同じ線で描かれ、ビジネスモデルの核心である「お金がどう戻るか」が図から読み取れなくなるケース。第三に「自社の埋没」— 業界構造を描くことに集中するあまり、その中で自社がどの位置を取るのかが図の中で目立たなくなるケースです。
ここからは、この落とし穴をそれぞれ異なる設計で回避している対照的な二枚 — 取引の構造を一枚に収めるラクスルと、産業の全体像を地図として描くABEJAの実例を見ていきます。
取引の構造を描く派: ラクスルの「線種で語る一枚」
ラクスルのビジネスモデルスライドは、フロー図の中でも取引構造型と呼べる実例です。左にユーザー3セグメント(それぞれRAKSUL ID数を併記)、右にサプライヤー(パートナー企業約400社)、中央に調達・マーケティング・ファイナンスのプラットフォーム円を配置し、番号で読み順を指定したうえで、実線=サービスの流れ・破線=お金の流れという凡例で2種類の流れを線種で区別しています。登場人物を3者に絞って左右に振り分け、読み順を番号で固定し、流れの種類を線種で分ける — 前段で挙げた三つの落とし穴のうち二つを、レイアウトと記法の取り決めだけで回避している構成です。各頂点に具体的な数(ID数・社数)が添えられているため、構造の図でありながら規模感も同時に読み取れます。 出典: ラクスル『2025年7月期 決算説明会資料』(2025-09-12 開示) p.31

産業の地図を描く派: ABEJAの「ハブを示す一枚」
対照的なのがABEJAです。同社のAIバリューチェーンスライドは、上段に「半導体・データセンター・クラウド/オンプレミス」から「業務・現場でのAI活用」へ至る抽象化したチェーンを示し、下段に産業全体を俯瞰するイラストマップを敷いて、自社プラットフォームをハブ位置に置く産業地図型の構成です。図には構成要素の一部を記載した旨の注記が添えられています。自社の取引相手ではなく産業構造そのものを描き、その結節点に自社を置くことで「この構造が拡大するほど自社への需要も増える」という位置取りを紙面の空間配置で語る設計です。抽象化した上段と具体的な下段の2層構成のため、読み手は先に流れの骨格をつかんでから細部に降りることができます。三つ目の落とし穴 — 自社の埋没を、ハブという配置そのもので回避している一枚と読むこともできます。 出典: ABEJA『2026年8月期 第1四半期 決算説明資料』(2026-01-14 開示) p.10

ビジネスモデルページを見直すなら、どこから見るか?
観察から見えてくる分かれ目は「図の読み始めと読み終わりが設計されているか」です。フロー図が73%(1433枚)と一強である事実は、このページの勝負が図表の選択ではなく描き方にあることを示しています。そのうえで二社の実例が示すのは、同じフロー図でも、自社を中心に取引の構造を描く道と、産業の中での位置を地図として描く道があるということです。
本稿の観察を資料の見直しに使うなら、次の三つが手がかりになります。第一に、読み順はあるか — 番号や配置で、どこから読み始めるかが決まっているか。第二に、流れの種類は区別されているか — 商品・サービスの流れとお金の流れが、線種や色で見分けられるか。第三に、自社の位置は図の中で際立っているか — 登場人物の一人としてではなく、構造の中心なりハブなり、取る位置が空間配置で示されているか。いずれも今回の横断観察と二枚の実例から見えてきた、多数派の中で差がつく共通項です。
次回も決算説明資料の「見せ方」を横断データから観察していきます。研究ノートの新着は、ニュースレターでもお知らせします。
本コンテンツは公開されたIR資料の「表現・構成」を研究・紹介するものであり、特定銘柄の投資勧誘・投資助言を目的とするものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。 本メディアは ir-slide-library(IR資料検索サービス)の開発・運営者が運営しています。 訂正・引用ポリシー: /editorial-policy / ニュースレター登録: /newsletter?utm_source=blog&utm_campaign=ra_20260815_business_model_flow
本メディアは ir-slide-library(IR資料検索サービス)の開発・運営者が運営しています。