市場規模(TAM)スライドの見せ方 — 1174枚の横断集計で最多は三重円ではなく棒グラフ

市場規模スライドで最も使われる図表は何か?

最多は TAM/SAM/SOM の三重円ではなく、棒グラフです。上場企業の市場規模スライド1174枚を横断集計すると、棒グラフが456枚(39%)で最も広く使われています。2位は折れ線グラフの227枚(19%)でした。

こんにちは。IR資料検索サービス ir-slide-library の開発・運営者が運営する「決算スライド研究室」です。3回目のテーマは、決算説明資料の序盤で事業の前提を語る「市場規模」のページ。スタートアップのピッチ資料では TAM/SAM/SOM の三重円が定番として語られますが、上場企業の決算説明資料では様子がまったく違います。

今回は横断データでその分かれ目を確かめたうえで、いま最も市場の語り方が注目されているセクター — 半導体から、東京エレクトロンとアドバンテストの対照的な二枚を読み解きます。

※集計: スライド分類データ(市場規模カテゴリ)のチャート種別集計(reproducible_query: q_364a9a33) / 対象: 上場企業の決算説明資料に含まれる市場規模スライド(画像化済み)(n=1174) / 出典: 各社公開の決算説明資料(当メディア独自集計) / 取得日: 2026-08-01

※集計: スライド分類データ(市場規模カテゴリ)のチャート種別集計(reproducible_query: q_9e517dfe) / 対象: 上場企業の決算説明資料に含まれる市場規模スライド(画像化済み)(n=1174) / 出典: 各社公開の決算説明資料(当メディア独自集計) / 取得日: 2026-08-01

そもそも「市場規模スライド」とは何か?

市場規模スライドとは、自社が事業を展開する市場の大きさ・成長性を、決算説明資料の序盤や成長戦略の文脈で提示するスライドである。本稿ではこの定義で観察を進めます。

集計の上位を眺めると、はっきりした傾向が見えます。3位は積み上げ棒グラフの172枚(15%)、4位は表(テーブル)の167枚(14%)。つまり上位はすべて、実額や実数の推移・内訳を示す道具です。市場の包含関係を概念的に描く三重円のような図は、チャート分類の上位に現れません。

理由は読み手の違いにあると考えられます。ピッチ資料の三重円は「この市場はこんなに大きい」という可能性の提示で、まだ実績のない会社が事業の伸びしろを語る道具です。円の大きさに厳密な根拠は求められず、むしろ構想のスケール感を直感的に共有することが役割でした。一方、決算説明資料の読み手が知りたいのは「その市場は、いつ、どれだけ育ち、そのなかでこの会社は何を取るのか」。しかも決算資料は毎四半期更新され、前回の見通しとの差分が必ず確認されます。概念の円より、年次の実額が並ぶ棒グラフのほうが、翌期に答え合わせができる検証可能な語りになるのです。市場規模ページは、上場すると「構想を語る場」から「前提を開示する場」へ役割が変わる — 集計の上位が実額系の道具で占められている背景には、この構造があると考えられます。

※集計: スライド分類データ(市場規模カテゴリ)のチャート種別集計(reproducible_query: q_49c5cae8) / 対象: 上場企業の決算説明資料に含まれる市場規模スライド(画像化済み)(n=1174) / 出典: 各社公開の決算説明資料(当メディア独自集計) / 取得日: 2026-08-01

※集計: スライド分類データ(市場規模カテゴリ)のチャート種別集計(reproducible_query: q_093c9871) / 対象: 上場企業の決算説明資料に含まれる市場規模スライド(画像化済み)(n=1174) / 出典: 各社公開の決算説明資料(当メディア独自集計) / 取得日: 2026-08-01

半導体の市場はどう語られているか?

この「前提を開示する場」としての市場規模ページが、いま最も注目を集めやすいのが半導体セクターです。生成AIの需要拡大で市場予測は頻繁に更新され、読み手の関心は決算数値そのものと同じくらい「市場の見通しをどう置いているか」に集まっています。各社の紙面には、その緊張感がそのまま表れています。

とはいえ、市場規模ページには実額系の道具を使っていても伝わりにくくなる落とし穴がいくつかあります。よく見かけるのは三つ。第一に「出典の無い巨大数値」— 何兆円という数字だけが浮かんでいて、誰の推計か、何を含む市場かが読み取れないケースです。数字が大きいほど、根拠の欠落は不信につながります。第二に「市場の成長と自社の成長の混同」— 市場が年率二桁で伸びるグラフを見せても、それ自体は自社が伸びる根拠にはなりません。市場の話と自社の話の接続が語られて初めて、このページは意味を持ちます。第三に「市場の定義が広すぎる」— 実際に自社が参入できる範囲を大きく超えた市場を描くと、かえって読み手は割り引いて受け取ります。

ここからは、この落とし穴をそれぞれの設計で回避している半導体二社 — 半導体製造装置の東京エレクトロンと、半導体テスタのアドバンテストの対照的な実例を見ていきます。

レンジで語る派: 東京エレクトロンの「幅のある見通し」

東京エレクトロンの WFE(ウェーハファブ装置)市場スライドは、最多派である棒グラフ型の実例です。市場推移の棒に成長方向の矢印を重ね、紙面の右半分に年間150〜170Bドルというレンジの見通しと、その前提を箇条書きで並置します。特徴的なのは、予測を一つの数字に決め打ちしていないことです。市場の不確実性が高い局面で、幅を持った見通しと前提条件をセットで示す構成のため、仮に予測が外れても「どの前提が変わったか」を読み手が追跡できます。棒グラフという多数派の道具を使いながら、レンジ表記で不確実性まで紙面に織り込んでいる点がこの一枚の要点です。 出典: 東京エレクトロン『2026年3月期 決算説明会資料』(2026-04-30 開示)p.15

東京エレクトロンのスライド(引用)
原本資料(出典元)を見る ↗

シェアと束ねて語る派: アドバンテストの「市場の中の自分」

対照的なのがアドバンテストです。同社のテスタ市場スライドは、年次ごとの市場規模の金額と、ドーナツチャート中央の自社シェアを3年分横並びにし、下段に SoC テスタ・メモリテスタ別の明細表を添える複合型。市場の拡大と自社ポジションの変化を、一枚で同時に読ませる構成です。市場が拡大する局面では「市場が伸びたのか、その中で自社の位置がどう変わったのか」が読み手の関心事になります。市場規模とシェアを別ページに分けず一体で見せるこの設計は、その問いに紙面の構成そのもので応えるものです。前段で挙げた「市場の成長と自社の成長の混同」という落とし穴を、そもそも両者を同じ紙面に置くことで回避している構成、と読むこともできます。 出典: アドバンテスト『2025年度決算説明会資料』(2026-04-27 開示)p.18

アドバンテストのスライド(引用)
原本資料(出典元)を見る ↗

市場規模ページを見直すなら、どこから見るか?

観察から見えてくる分かれ目は「読み手が翌期に答え合わせできる形になっているか」です。上場企業の紙面では、概念図で可能性を語るより、実額・レンジ・シェアで前提を開示する形が主流でした。

整理しましょう。棒グラフが39%と最多である事実は、決算説明資料の市場規模ページでは「概念の提示」よりも「検証可能な前提の開示」が選ばれてきたことを示しています。そのうえで半導体二社の実例が示すのは、同じ実額ベースでも、不確実性をレンジで示す道と、自社シェアと束ねて示す道があるということです。

本稿の観察を資料の見直しに使うなら、次の三つが手がかりになります。第一に、市場の数字に時間軸はあるか — いつの市場が、いつまでにいくらになるのかが読み取れるか。第二に、予測の不確実性はどう扱われているか — 一点予測なら、前提条件を添える余地はないか。第三に、市場の話が自社の話につながっているか — 市場が伸びる根拠だけで終わらず、そのなかで自社が何を取るのかまで一枚の射程に入っているか。いずれも今回の横断観察と二枚の実例から見えてきた、多数派と好例の共通項です。

次回も決算説明資料の「見せ方」を横断データから観察していきます。研究ノートの新着は、ニュースレターでもお知らせします。

本コンテンツは公開されたIR資料の「表現・構成」を研究・紹介するものであり、特定銘柄の投資勧誘・投資助言を目的とするものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。 本メディアは ir-slide-library(IR資料検索サービス)の開発・運営者が運営しています。 訂正・引用ポリシー: /editorial-policy / ニュースレター登録: /newsletter?utm_source=blog&utm_campaign=ra_20260801_market_size

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