今週の「この1枚」7選 — 決算説明資料の見せ方を「そろえたもの・変えたもの」で横断して読む
今週の七枚は、どんな物差しで並べると読み解きやすいのか?
本稿では七枚それぞれを、「同じ形にそろえたもの」と「そのうえで変えたもの」の組み合わせとして読み直します。
こんにちは。IR資料検索サービス ir-slide-library の開発・運営者が運営する「決算スライド研究室」です。10月4日から10日までの一週間、上場企業の決算説明資料から毎日一枚ずつスライドを選び、紙面の組み立てを観察してきました。取り上げたのは、日本たばこ産業・MonotaRO・ギフティ・セブン&アイ・ホールディングス・Laboro.AI・髙松コンストラクショングループ・SREホールディングスの七社の資料です。業績の増減要因、成長戦略の進み具合、ビジネスモデル、KPI、組織体制、グループ構成、同業との位置づけと、扱った題材は日ごとに異なりました。
題材が違えば、図表の種類も違います。滝グラフ、表、矢印と背景の図、数字の区画、箱の図、帯の図、散布図。ただ、図表の種類で分類しても、七枚を見比べる手がかりはあまり増えません。そこで今回は別の物差しを当てます。どの紙面にも、繰り返し同じ形で描かれている部分と、そこから一か所だけ形や色を変えている部分があります。この「そろえたもの」と「変えたもの」の組み合わせで束ねると、題材の違う紙面どうしを同じ机の上で比べられます。
以下では七枚を三つの組に分けて読み、最後に、今週登場した形が上場企業の資料全体の中でどのくらい使われているかを横断データで確かめます。なお本稿が扱うのは紙面の見せ方だけで、各社の業績や数値の良し悪しには触れません。
同じ語を置くと、離れた要素はどう結びつくのか?
日本たばこ産業とMonotaROの二枚は、紙面の離れた場所にある要素に同じ語を置き、線や矢印を使わずに両者を対応させる構成になっています。
日本たばこ産業 — 柱の名前を、そのまま見出しに使う
日本たばこ産業の「たばこ事業 財務実績」のページは、左上に実績と前年同期比の表、左下に調整後営業利益の増減要因を示す滝グラフ、右側に緑の見出し箱とその下の箇条書き、という三つの区画で組まれています。そろえられているのは語と順序です。右側の見出し箱は上から Volume、Price/Mix、Others、FX で、滝グラフの要因の柱の下に書かれた名前とスラッシュまで同じ表記・同じ並びになっており、グラフと見出し箱のあいだに線や矢印は引かれていません。一方、変えられているのは柱の塗りです。2024年1-3月・2025年1-3月 為替一定・2025年1-3月の柱が濃い緑、Volume と Price/Mix が薄い緑、Others と FX が灰色で、灰色の柱の数字には「-」が付いています。柱と説明の対応は語が受け持ち、柱どうしの役割の違いは色が受け持つ。二つの手がかりが別々の仕事をしている紙面と読むことができます。 出典: 日本たばこ産業『2025年度 第1四半期 決算説明会資料(CFOプレゼンテーション)』(2025-05-07 開示) p.6

MonotaRO — 「方向」と「進捗」のセルに同じ語を置く
MonotaROの「国内事業 1/5」のページは、Micro・Small・Mid・Large の4行と、「顧客売上規模」「当社の2024年末状況」「2025年の方向」「進捗状況」の4列からなる表を中心に据え、行ごとに濃い青と淡い青を交互に塗り分けています。ここでそろえられているのは、同じ行の中で隣り合う二つのセルの語です。どの行でも「2025年の方向」と「進捗状況」のセルに共通する語が置かれていて、たとえば Large 行では、方向の「高ポテンシャル拠点をターゲットに現場営業活動の強化。」に対して、進捗に「高ポテンシャル拠点に営業担当配置と営業人員強化。」と書かれています。日本たばこ産業の一枚がグラフと文章のあいだで語をそろえていたのに対し、こちらは表の列と列のあいだで語をそろえている、という違いがあります。行を左から右へ読むと、掲げた方向とその進み具合が同じ語でつながっていく構成です。 出典: MonotaRO『2025年12月期 第2四半期 決算説明資料』(2025-07-31 開示) p.24

同じ型を繰り返すとき、どこを変えて違いを見せているのか?
セブン&アイ、Laboro.AI、ギフティの三枚は、区画や段の型をそろえたうえで、中に入る単位や箱の塗り、背景の地の色を変えて違いを示しています。
セブン&アイ・ホールディングス — 単位の違う指標を、同じ並びの区画に入れる
セブン&アイ・ホールディングスの「施策の進捗状況(SEI)」のページは、紙面を左右二つの枠に分け、それぞれの緑の見出し帯の下を細い横線で3段に区切って、合わせて六つの区画を置いています。そろえられているのは区画の作りで、六つとも左に緑の線で描いたアイコン、右に黒い太字の指標名、その下に緑の大きな数字と小さめの単位、という同じ並びです。変わるのは中に入る指標のほうで、六つの数字に付く単位は店・アイテム・百万ドル・%の4種類にわたります。グラフの軸を共有させるのではなく、区画の型を共有させることで、単位の異なる六つの指標が同じ順序で読める形にまとめられています。 出典: セブン&アイ・ホールディングス『2025年度 決算説明資料』(2026-04-09 開示) p.16

Laboro.AI — 同じ四つの箱で、黒く塗る位置を変える
Laboro.AIの「注力領域を踏まえた組織体制の拡充の方針」のページは、紙面を点線で上下2段に分け、上の段にAIソリューションデザイン(AI-SD)の箱とソリューションデザイナを、下の段にエージェントトランスフォーメーション(AGT-X)の箱と「新チーム」の札が付いたエージェントトランスフォーメーションプロデューサーを置いています。そろえられているのは箱の名前と配置で、どちらの段にも「AIに対する高度な知見」「ビジネス知見」「ドメイン知見」「顧客変革の推進力」の四つの箱が同じ位置に並びます。変えられているのは塗りで、黒く塗られているのは上の段の「AIに対する高度な知見」と下の段の「顧客変革の推進力」の二つ、残る六つは灰色です。紙面の文章には「濃淡」という語が2か所に出てくる一方、黒と灰色の塗り分けを説明する凡例は置かれていません。箱の並びが上下で同じなので、二つの段の違いは黒い箱の位置の違いとして目に入ります。 出典: Laboro.AI『2026年9月期第3四半期決算説明資料』(2026-08-12 開示) p.44

ギフティ — 罫線ではなく、背景の地の色で段を分ける
ギフティの「giftee for Businessの構造変化」のページは、左上の「領域拡大」の語から右向きの矢印を引き、その下にBtoC・Corporate Gift(BtoB/BtoE)・GtoC(Government to Consumer)の3列を並べています。そろえられているのは3列の段の作りです。どの列も上の段が白地、下の段が薄い青地で、境目の高さは3列で揃っており、境目には罫線を引かずに白から薄い青へ徐々に色が変わるように塗られています。左端には上に「フロー型」、下に「ストック型」の語を縦書きで置き、上下両方に矢じりのある灰色の矢印で結んでいて、上部の「領域拡大」の右向きの片矢印とは矢印の形が描き分けられています。横方向の広がりは列の並びで、縦方向の違いは地の色の変化で示す。二つの方向の話が、別々の描き方で一枚に収められています。 出典: ギフティ『2025年12月期 決算説明資料』(2026-02-13 開示) p.18

帯の長さや点の位置に、どう意味を持たせているのか?
髙松コンストラクショングループとSREホールディングスの二枚は、帯の長さや点の位置を情報として使い、持株会社や自社を幅や色で描き分けています。
髙松コンストラクショングループ — 列をまたぐ帯の長さで、担う領域を示す
髙松コンストラクショングループの「企業集団の状況」のページは、上端に土木・建築・不動産・主要営業エリアの4列の見出しを置き、その下にグループ会社20社の名前を書いた帯を1社1行で並べ、最下段に純粋持株会社の帯を置いています。そろえられているのは1社1行という並べ方で、変わるのは帯の長さです。土木・建築・不動産の3列すべてにまたがる帯が1本、建築と不動産の2列にまたがる帯が2本あり、残る17本は1列の幅に収まっています。最下段の持株会社の帯だけは主要営業エリアまで含む4列すべてにまたがる幅で描かれ、その上の20本はいずれも土木から不動産までの範囲に収まっています。帯の端がどの列で止まるかを見れば、各社が受け持つ事業領域の範囲がたどれる構成です。 出典: 髙松コンストラクショングループ『2027年3月期 第1四半期 決算説明資料』(2026-08-05 開示) p.3

SREホールディングス — 同業を名前付きで置き、色と枠で描き分ける
SREホールディングスの「トピックス:当社のポジショニング」のページは、縦の点線で紙面を左右に分け、左に文章、右に「情報・通信業における企業との成長率比較」と題した散布図を置いています。そろえられているのは比較の土俵で、自社のほかに9社の社名が点のそばに書き添えられ、同じ二つの軸の上に並んでいます。赤い枠の中に置かれた点には社名が付いていません。変えられているのは色です。青く塗られた点は自社の1点だけで、自社名は青い文字に下線を付けて他社名より大きく書かれ、他社の点は灰色、他社名は黒い文字です。さらに青と赤の二つの長方形の枠があり、枠の外には枠と同じ色の文字で「バーティカルAIプラットフォーマー」「汎用ソフトウェアサービス」と書かれています。点の位置が各社の値を示し、色と枠がまとまりを示す。一つの散布図の中で、位置と色が別々の役割を受け持っています。 出典: SREホールディングス『2026年3月期第3四半期決算説明資料』(2026-02-10 開示) p.17

今週登場した形は、上場企業の資料の中でどのくらい使われているのか?
当メディアの横断集計では、今週の形のうち滝グラフ、アイコンを並べた図、スキルのタグが付く紙面、散布図は、いずれも各スライド種別の数%以下にとどまりました。
画像化済みの決算実績(financial_results)スライド30432枚のうち、ウォーターフォール(滝グラフ)を使うのは355枚(1.2%)でした。
画像化済みのKPIを扱う(kpi_metrics)スライド1705枚のうち、アイコンを並べた図(chart_types に icon_array)と判定されたものは10枚(0.6%)でした。
画像化済みの組織・人材を語る(organizational)スライド3362枚のうち、スキルを扱うタグ(スキルセット・スキルマトリックス等)が付くのは107枚(3.2%)でした。
画像化済みの競合や市場での立ち位置を語る(competitive_landscape)スライド204枚のうち、散布図を使うのは8枚(3.9%)でした。
四つの割合は、母数となるスライド種別も、数え方の条件もそれぞれ異なります。そのため割合どうしを並べて大小を比べることはせず、それぞれの種別の中での位置づけとしてだけ読んでください。また、使われる頻度が低いことは、その形の良し悪しを示すものではありません。集計が数えているのは図表の種類やタグであり、本稿で見てきた語のそろえ方や塗り分け、地の色の使い方までは数えていない点にも注意が必要です。図表の種類という物差しで数えた結果と、「何をそろえ、何を変えたか」という物差しで読んだ結果は、別々の情報として並べて扱うのが本稿の立場です。
※集計: slide_catalog.json の chart_types 集計(manual_20261001_jt_a) / 対象: 画像化済みの financial_results スライド全体(n=30432) / 出典: 各社公開の決算説明資料(当メディア独自集計) / 取得日: 2026-10-01
※集計: slide_catalog.json の chart_types 集計(manual_20261001_seven_a) / 対象: 画像化済みの kpi_metrics スライド全体(n=1705) / 出典: 各社公開の決算説明資料(当メディア独自集計) / 取得日: 2026-10-01
※集計: slide_catalog.json の tags 集計(manual_20261001_laboro_a) / 対象: 画像化済みの organizational スライド全体(n=3362) / 出典: 各社公開の決算説明資料(当メディア独自集計) / 取得日: 2026-10-01
※集計: slide_catalog.json の chart_types 集計(manual_20261001_sre_a) / 対象: 画像化済みの competitive_landscape スライド全体(n=204) / 出典: 各社公開の決算説明資料(当メディア独自集計) / 取得日: 2026-10-01
自社の資料を見直すなら、どこから手を付けられるか?
一枚の中で「何を同じ形にそろえ、何を変えて見せているか」を書き出してみることが、今週の七枚から持ち帰れる見直しの入口です。
手がかりは三つあります。第一に、離れた場所にある要素どうしが同じ語で結ばれているか。グラフの柱の名前と説明の見出し、掲げた方向と進捗の記述のように、対応させたい二つの要素の表記がそろっているかを確かめます。第二に、繰り返している型の中で、変えている要素がどこにあるか。区画や箱や段の並びを共通にしている紙面なら、その中で塗りや単位、地の色のどれを変えているのかを一つずつ書き出してみます。第三に、長さや位置、色や枠で描き分けた要素が、どのまとまりを指しているかを紙面の上でたどれるか。帯の端が止まる列、点を囲む枠の色、その枠の名前といった手がかりが、同じ紙面の中に置かれているかを見ていきます。
三つとも、新しい図表の種類を持ち込まなくても、いま手元にある紙面の中で確かめられる観点です。次週も決算説明資料から「この一枚」を選び、見せ方を観察していきます。各回の解剖は動画で公開しており、研究ノートの新着はニュースレターでもお知らせします。
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